小春は、昨夜ベッドに入る時に、明日のことを決めていた。
翌朝、早く起きて顔を洗い、髪をまとめる。
車の後部座席、まるめたひざ掛けの下にノートPCを置く。
7時20分、起きてきた子どもに車のキーを見せながら、
「学校まで送るよ」と言う。子どもが笑顔になる。
子どもを学校まで送り届けると、手を振り、車は走り出す。
会社へ向かうように、角を左へ曲がる。
見えなくなった場所で方向を変え、そしてそのまま喫茶店へと向かった。
8月で会社を辞めた。今は無職だ。
子どもにはまだ話していない。
通勤の時間帯は、信号に列ができる。
右折レーンはなかなか進まない。
急いでいない小春は、前方をぼんやりと見ていた。
子どもが泊まった朝は、少し取り繕う。
内緒にすることでもないけど、自分ひとりの自由に
罪悪感を感じてしまう。
お店に到着し、ノートPCを抱える。
月曜日の朝8時、お客さんは数えるほど。
コンセントのある席を探して座る。モーニングを頼む。
小春はコーヒーが好きだが、好みにこだわりはない。
ブレンド、と言った後に、カフェラテで、と変えた。
子どもと会わない日は誰とも話さないから、
表情が少し固くなるように感じる。
ノートPCの電源を入れる。
ほどなくモーニングが運ばれてくる。
コーヒーのいい香りがする。ふわっと力を抜けさせた。
ひとりでいても苦しい。
どこにいても、生きづらさは消えない。
バタートーストを食べながら、家ではなかなか進まない
創作活動に向き合う。
小春は指が動くまま、キーボードを打ち続ける。
コーヒーを一口飲む。熱くて、おいしい。
ひとりの時間も、物書きになりたいことも
今はまだ秘密のまま。
何の罪もない、誰も気に留めない、そんな小さく
こうしたことが、今日も小春を生かし、
また一歩と歩かせてくれる。