とある喫茶店
ひとりで入るのに躊躇し、その扉の前を
2度通り過ぎる
駅からの道は、考えていた以上に長かった
道路工事で遠回りの道を
歩くはめになったからだ
夏も終わりだというのに
その日は晴れて、気温が上がった
私はひとりで外食をしたことがない
だから躊躇っている
あぁ、足がくたくただ
座りたい
3度目にドアの前に立った時
恐る恐る入店する
店内には
何人かのひとり客がいる
お好きなテーブルへどうぞ
ひとりなので遠慮して
カウンターへ座ったが
店員との距離が思ったより近く
気を取り直して、テーブル席へと向かう
2人用の席を選んで座る
平日の昼下がり
客は次々と 入ってくる
ほとんどが 女性のひとり客だ
そうなのか、知らなかった
この世界を
扉1枚向こうに広がる
この世界を
あの人の暮らしは丁寧だろうか
今朝はどんな気分で目覚めたのだろう
夢は見たのだろうか
青いワンピースがよく似合っている
同じ時間に、同じ店に座っている
それぞれの客を眺めながら
私は勝手に想像し続ける
私の家には猫がいます
バッグの中には、いつでも読めるように小説が入っています
たった今、恋人と別れました
私はどんな風に映っていますか
誰も気になどしないか
いや
ひとりずつ、バラバラでいても
言葉を交わすことはなくても
ひとりずつの私たちは
少しだけお互いの気配を感じながら
パンケーキを口に運び
コーヒーを飲んでいる
ABOUT ME