東京の片隅の細い路地、古いアパートの2階に
探していた人は暮らしていた。
長らく音信不通になっていた人であり、小春はその人には1度だけ
小学校低学年の頃に会った記憶があった。父の弟である。
昨年父が亡くなったこと、祖母だけがひとりで暮らしていることを
伝えようと探していたが、連絡先がわからないまま1年が過ぎていた。
実家を片付けているときに、古いアドレス帳が出てきた。
その中にその人の住所を見つけた。
アドレス帳は、小春が子どもの頃から家にあったものだ。
その人は今もこの住所に暮らしているのだろうか。
次の休日に、行ってみることにした。
住所の場所に、そのアパートは建っていた。
とても古かったが、まだそこに建っていた。
階段下、部屋番号のポストには、小春と同じ苗字が書かれている。
会っていいものかどうかわからなかった。
父はその人の話をする時、なんとなく言葉を濁していた。
だから、いつもそれ以上訊ねることはしなかった。
父はどうして欲しいのだろう。
小春はドアの前に立ち、しばらくドアを見た後、会わないまま帰ることにした。
そう遠くない先に、また来てみようかと思うかもしれない。
そしてまたドアをノックできずに帰るのかもしれない。
何度も何度も、その窓を振り返りながら、小春はそう思っていた。
だけどその人に会うべきかは、やはりわからない。
帰りの電車の中で、小春は思う。
自分の思い知らないところで、誰かが自分を気にかけている。
そんな風にできている世界が不思議だと。
例えそれが相手に伝わることなく、死ぬまで交差しなくても。
探していた人はそんな小春を知らずに、今日を生きている。
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