小春はひとり暮らしをしている。
春に子どもが大学生となり、入学と共に寮暮らしを始めた。
住民票上はふたり暮らしのままだが、小春はいつの間にかひとり暮らしとなっていた。
子育て中は、あんなにひとりになりたいと発狂していたのに、
本当にひとりになってからは持て余す時間の大きさに圧倒され、
更年期と空の巣症候群と燃え尽き症候群が押し寄せ、体のあちこちを不安にさせ、
毎夜ベッドに入り天井を見上げるたびに、涙がこぼれて両耳を濡らすのだった。
小春は思う。
子どもにかかるお金も大方見当がついた。何とかなるだろう。
後は自分ひとりを食べさせていけばよい。
ようやく肩の荷が下りたような気がした。
ひとりで子どもを育ててきた。仕事も頑張った。
今ようやくこうして自分の時間を持てるようになったとき、
これからの住まいをどうしようかと考え始めた。
今は賃貸アパートの2LDK。
ひとりには広いようにも思うが、子どもが泊まれるようにもしておきたい。
子どもは大学卒業後に小春の元に戻ってきて、お金がたまるまでは一緒に住むと話すが、
実際大人になった子どもと暮らすのはいかがなものか。
小春もいつまでも若くはない。
あれこれと子どもの世話をするのは負担だ。
世話をしなければいいと思うが、家の中を散らかされるのはストレスだし、
何より一緒にいると母親になってしまう。
心のざわざわを極力減らしたいためにも、別々の生活がいいのではないか。
春にはあんなにさみしいさみしいと泣いていたのにとふと思う。
小春は夏になる頃には、ひとり暮らしの快適さを噛みしめ始めていた。
家を買おうか。小さな家。
小春はペンと紙を引き寄せ、住みたい家のイメージを書き始めた。
小春は字を書くことが好きだ。
考えが整理されていく気がする。
思いつくままにひとつひとつ書き出し、書き尽くして一旦ペンを置いても
また何日かしてから思いついたことを付け足していった。