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ひとりで見る景色は

隣のアラームくん

小春の隣室には、アラームくんが住んでいる。

2年前に小春がこのアパートに越してきた時から、アラームくんは存在した。

毎朝5:30から7:00まで、隣室からスマホのアラームが

途切れることなく鳴り続ける。

それは平日・土日に関係なく毎朝続き、隣に住む小春をしっかり起こすのである。

アラームくんの朝は忙しい。

5:30から7:00まで、たっぷりアラームが鳴り続けると

7:05 アラームくんの玄関のドアが強めにバタンと開き、アラームくんは駆け足で

靴を履こうと努力しながら、車に飛び乗り出かけていく。

この2年間、毎朝繰り広げられる光景を、小春は2階の窓から

ちらっと見た。

アラームくんが出かけない日は、さらに7:00過ぎまでアラームは鳴り続ける。

なんのためのアラームなのかしら。

小春は思う。

もっと現実的な方法が思い浮かばないものかしら。

不思議なアラームくんは、そのアラームの力で隣室の小春を

(もしかしたら下の階の住人をも)、毎朝5:30に目覚めさせ続けている。

苦情は伝えていない。

小春にはなんだかアラームくんが、不憫に感じてしまうからだ。

同じことを何百回も繰り返す(この2年間だけで365×2)アラームくん。

小春が引っ越してくる前からだとしたら、1000回以上は繰り返している。

アラームくんには、アラーム問題だけでなく他にも課題がありそうだが

きっともう誰も注意しない。

周りが諦めているような気が薄々するのだ。

アラームくんは、そんな隣人の切ない思いなどつゆ知らず、

今朝も靴を履こうと懸命につま先を地面に打ちつけながら、車へ飛び乗り走り出す。

仕事はスムーズにできるといいね。

小春は、ようやく静かになった1日の始まりに、うーんと体を伸ばすのだった。

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lily
空想を言葉に。いつか会う人を思いながら。

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