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ひとりで見る景色は

真夜中の左手

小春はひとり旅をしている。

子どもと離れて暮らすようになってから、時々旅に出るようになった。

散歩が趣味の小春は、知らない街を散歩する。

この日は、江ノ電を稲村ケ崎駅で降り、それから鎌倉駅までの道をゆっくり歩いた。

行き止まりそうな路地をのぞき、急な傾斜の石段を見上げては、

その先を想像してひとり楽しく歩いた。

夜は、新しくできた横浜のホテルを予約していた。

15:00にチェックインした後、部屋に籠り、

書き物をしたり、本を読んだり、窓から眼下を眺めたりして過ごした。

スーツケースを重そうに引く人、足早に去っていく人。つかえては動き出す車の流れ。

暗くなってもカーテンは閉じずにいた。

都会は深夜も人が歩き、車が途絶えることはない。

眠くなり、眼鏡をはずし眼鏡ケースにしまう。途端に夜景がぼんやりする。

そうして眠りに落ちるまで、小春は外を眺めていた。

思っていたよりよい部屋だと思い、ひとりで来たことに少し残念な気持ちになり、

あぁ子どもを連れてきたいと思うのだった。

小春はいつしか眠りに落ち、真夜中に目が覚めた。

右向きに窓の方を向いて寝ていた。

目の前に自分の左手があったが、それが自分の手ではないように思え

怖くなって反対側へ寝返りを打った。

ここのところ疲れている、と小春は小さく呟き、また眠りに落ちていった。

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lily
空想を言葉に。いつか会う人を思いながら。

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