G-J0DDFGRNC8
自由詩

恋人の姿

恋人を驚かせようと、早めにその場所に着いた。

彼の姿を探して歩く。

彼の驚く顔と、その後に広がる嬉しそうな顔を

何度も想像しながら。

フロアの奥で、彼を見つけた。

ソファでくつろぐ彼と、その隣には華やかな人。

彼の肩に寄りかかり、耳元で何かをささやくと、

彼は大きく笑い、その人の腕に触れた。

シャイな人だと思っていた。

そんな風に笑うなんて知らなかった。

私の前では、だって、はにかむように笑うから。

数秒の後、彼は私を見つけた。

彼の瞳が、ゆっくりと大きく開くのを見た。

私は背を向けて歩き出す。

怒っていたのではなく、その場で泣きたくなかった。

無機質なシルバーのエレベーター。

壁と境目もないほど平らなボタンを何度も叩く。

ようやく開いた箱に乗り込む。

閉まる扉の向こうから、私の名前を呼ぶ声が

聞こえたような気がした。

心臓の鼓動がなんて速いんだ。

呼吸がうまくできないみたいだ。

時間を戻したい。

浮かれていた自分が呪わしい。

違う選択をできるように、時間を戻して、

今夜は残業をするか、まっすぐ家に帰るか。

あるいはうっかりして、あのフロアを通り過ぎるように。

それでも彼の事実は消せない。

彼が過ごしていた時間は、確かにそこにあるのだから。

いつかはみじめな私に、出会う運命なのだ。

ABOUT ME
lily
空想を言葉に。いつか会う人を思いながら。

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です