恋人を驚かせようと、早めにその場所に着いた。
彼の姿を探して歩く。
彼の驚く顔と、その後に広がる嬉しそうな顔を
何度も想像しながら。
フロアの奥で、彼を見つけた。
ソファでくつろぐ彼と、その隣には華やかな人。
彼の肩に寄りかかり、耳元で何かをささやくと、
彼は大きく笑い、その人の腕に触れた。
シャイな人だと思っていた。
そんな風に笑うなんて知らなかった。
私の前では、だって、はにかむように笑うから。
数秒の後、彼は私を見つけた。
彼の瞳が、ゆっくりと大きく開くのを見た。
私は背を向けて歩き出す。
怒っていたのではなく、その場で泣きたくなかった。
無機質なシルバーのエレベーター。
壁と境目もないほど平らなボタンを何度も叩く。
ようやく開いた箱に乗り込む。
閉まる扉の向こうから、私の名前を呼ぶ声が
聞こえたような気がした。
心臓の鼓動がなんて速いんだ。
呼吸がうまくできないみたいだ。
時間を戻したい。
浮かれていた自分が呪わしい。
違う選択をできるように、時間を戻して、
今夜は残業をするか、まっすぐ家に帰るか。
あるいはうっかりして、あのフロアを通り過ぎるように。
それでも彼の事実は消せない。
彼が過ごしていた時間は、確かにそこにあるのだから。
いつかはみじめな私に、出会う運命なのだ。
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